現在新規抗体薬物複合体(ADC)、ダトポタマブデルクステカン(Dato-DXd)が開発中である。内分泌療法で進行し、局所進行性あるいは転移性癌のために化学療法を1から2ライン受けたホルモン受容体陽性HER2陰性の転移性乳癌(mBC)患者を対象としたTROPION-Breast01試験では、患者は無作為に1対1の割合でDato-DXdあるいは担当医選択治療(TPC)に割り当てられた。TPCにはエリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビン、カペシタビンが含まれていた。
中間解析の結果、Dato-DXd治療群では無増悪生存期間(PFS)が6.9カ月と有意に改善したのに対して、TPC治療群では4.5カ月であった。全生存期間もTPCよりDato-DXdの結果が良かったが、中間解析が行われて時点では統計的な有意性は示されなかった。
PFSが改善することは証明されたが、FDAに承認される場合、今後課題はDato-DXdが治療アルゴリズムのどこに位置付けられるかとなる。
既にFDA承認されたADCは2剤あり、ADC投与によって抵抗性が発生するのか、発生する場合はどのような仕組みで発生するのかを把握し、患者に対して複数のADCを順番に処方できるのか、どの順番で処方すべきなのかを探る必要がある。ADCを使用した後、別のADCを処方した場合を検証した臨床試験はまだ行われていない。サシツズマブゴビテカン(SG)同様、Dato-DXdはTROP2を標的としているADCであり、処方するにあたりバイオマーカー発現に関連する制限はない。
治療アルゴリズムを策定する際、各ADCの毒性プロファイルを考慮すべきである。例えば、骨髄抑制、血球減少症、下痢はSGで多く見られるのに対し、トラスツズマブデルクステカン(TDXd)では悪心や肺臓炎などが重症化する可能性が高い。また、Dato-DXdでは口内炎の発症率が高い。いずれのADCも脱毛症の発症率は同程度である。
- Bardia et al. ESMO. 2023.
- AstraZeneca PLC. Press Release. October 2023.
(翻訳: 衛藤みつこ)
解説
日本におけるTrop-2 を標的としたADC は、サシツズマブゴビテカン(SG)が 先に2024 年9 月24 日に日本での承認を取得しており、その適応は、化学療 法歴のある手術不能または再発のホルモン受容体陰性かつHER2 陰性(トリプ ルネガティブ)乳がんである。 ダトポタマブデルクステカン(Dato-DXd)では、本TROPION-Breast01 試 験において、ホルモン受容体(HR)陽性HER2 陰性進行・再発乳癌に対する 有用性が示された。実地診療に導入された場合の主な問題は、口内炎、ドライ アイなどの毒性対策である。ステロイド含有咳嗽薬が効果的であることが知ら れているが、日本では適応薬がなく、治験では内服用のデキサメタゾン水溶液 を流用するなどしていた。Dato-DXd の承認時には、保険診療で処方可能なス テロイド含有咳嗽薬が必要である。また、ドライアイに対する点眼薬について も、主としては薬局での購入が必要な点眼薬が想定されており、これについて も処方薬として適切なものが望まれる。 2024 年9 月23 日のプレスリリリースでTROPION-Breast01 試験では全 生存期間の最終解析で、Dato-DXd の有意な延長が示せなかったことを発表し た。 ほぼ同じ患者群を対象とするTROPiCS-02 試験では、全生存期間の有意な延 長も報告されており*、比較される薬剤として優位性のある結果かもしれない。 もちろん、Dato-DXd での口内炎、ドライアイといった有害事象と、SG での 骨髄抑制や下痢といった問題、また投与スケジュールが3 週1回投与のDato- DXd に対して、day1, 8 毎21 日投与のSG といったように、それぞれ一長一 短があり、総合的な判断での薬剤選択となる。 なお第一三共は3月14 日、Dato-DXd について、ホルモン受容体(HR)陽 性HER2 陰性の転移性乳がんに係る2次/3次治療を対象疾患に日本で承認申 請しており、日本で承認される2剤目のTrop-2 ADC となる。
Tolaney SM, ASCO 2023