DESTINY-Breast06試験では具体的に転移性乳癌(mBC)の中でもHER2低発現または、HER2超低発現患者(新しい分類の患者タイプ)に対してトラスツズマブデルクステカン(TDXd)をファーストライン化学療法として処方した場合に着目した。
HER2低発現とは免疫組織化学検査でHER2 2+かつFISH検査で陰性あるいはHER2 1+と診断された患者を指す。HER2超低発現とはHER2 1+の定義を満たさないが、HER2蛋白に対して微弱かつ不完全な細胞膜染色が10%未満の腫瘍細胞においてみられる患者を指す。HER2低発現はホルモン受容体陽性mBC患者の60-65%を占めるとされ、超低発現はさらに20-25%いると想定されているため、HER2超低発現の患者群においても有効であることが証明されれば、TDXdの推定標的母集団はmBCにおいて80-90%を占めることとなる。
この試験は標的治療と共に内分泌療法を2ライン以上処方された、前治療を相当豊富に経験している患者およびファーストライン内分泌療法、およびCDK 4/6開始後6カ月以内に進行あるいは術後内分泌療法を開始後24カ月以内に再発したハイリスクの患者を対象とした。
HER2低発現と超低発現を合わせた患者群およびHER2低発現のみ患者群に焦点を当てると、TDXdを処方された患者では無増悪生存期間(PFS)が13.2カ月であったのに対し、担当医選択治療(TPC)では8.1カ月であった。HER2超低発現の患者群はサンプル数が限られていたが、PFSはTDXd治療群において13.2カ月だったのに対し、TPC治療群では8.3カ月であった。
全体的に、臨床試験の結果でTDXdをファーストラインで使用しても問題がないこと、そしてHER2超低発現患者群においても有効であったことが証明された。ただし、TDXdをファーストラインで使用するにはさらに臨床試験を重ねる必要がある。特に現在好まれているファーストライン化学療法であるカペシタビンと比較して、TDXdは肺臓炎など重大な毒性が発生する危険性がある。カペシタビンは毒性が限られており、忍容性も高く、経口薬であるため利便性も高い。また、HER2検査は主観的な要素が多く、2人の病理医がスライドを解釈する際、同じ結果にたどり着く保証はない。したがって、より定量的かつ感度や特異性が高い自動検査法の開発が必要である。
- Curigliano et al. ASCO. 2024.
(翻訳: 衛藤みつこ)
解説
日本におけるトラスツズマブデルクステカン(T-DXd)はHER2 陽性進行
・再発 乳癌に対するセカンドライン、HER2 低発現(いずれもホルモン受容体の陽 性・陰性に関わらず)の進行・再発乳癌のセカンドラインで使用可能な薬剤と して広く認識し使用されており、間質性肺炎(ILD)に対する注意や、高度な悪 心・嘔吐への対策についてもかなり周知はすすんでいる。特に悪心対策につい ては、日本から第II 相ランダム化試験のESMO2024 の口演発表として報告が されるなど*、医師主導臨床研究も進んできた。 このような状況のなかで、DESTINY-Breast06 試験はホルモン受容体陽性進 行・再発乳癌の ファーストラインでの使用、①②HER2 超低発現への適応拡大 を目的に実施されている。本試験結果により、これらが達成されたが、いくつ か疑問点も残っている。 まず、IV 期乳癌が30%程度で、再発乳癌が多かったこと、また内分泌療法後 であったことを反映してか、対象薬は59.8%が経口FU 薬であるカペシタビン であった。日本でのファーストライン化学療法としては、パクリタキセルやパ クリタキセル+ベバシズマブも頻用されるため、IV 期乳癌でこれらと比較とし た場合の優越性がどれくらいかについては不明である。 また、HER2 超低発現については、免疫組織学的染色検査において陽性細胞 が全くいない場合をゼロとして、ごくわずかにでも細胞がいれば超低発現とす るため、各施設での病理医における判定が視野内の陽性細胞をみつけられるか といった、宝探しのような判断になりうる。病理医によって薬剤の適応判断が 異なることが想定される。 本試験の結果をもとに2024 年10 月4日に第一三共は、1つ以上の内分泌 療法を受けた化学療法未治療のHER2 低発現(IHC1+又はIHC2+/ISH-)又 はHER2 超低発現(膜染色を認めるIHC 0)の転移再発乳がんに係る適応追 加を一変申請しており、ホルモン受容体陽性乳癌のおそらく85%程度の患者の ファーストライン化学療法として、T-DXd が使用されることとなる。
Sakai H, ESMO 2024, Ann Oncol 2024