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米国における乳癌治療宝庫:FDA承認された抗体薬物複合体 (ADC)
2025年04月02日
要約

要約:
現在ホルモン受容体陽性かつHER2陰性あるいは低発現の転移性乳癌(mBC)のためにFDAから承認されている抗体薬物複合体(ADC)は、トラスツズマブデルクステカン(TDXd)とサシツズマブゴビテカン(SG)の二つある。

TDXdは当初HER2陽性と診断された患者のみにおいて使用が承認されていたが、HER2発現が少しある新しい分類とされるHER2低発現の患者においても有効性が示された。

SGはHER2陰性患者における使用が承認されており、ホルモン受容体陽性HER2陰性mBC患者では偏在的に発現されるTROP2を標的としたADCであるため、特定のバイオマーカーがなくてもTDXdが適応とならない患者に処方できる。

いずれのADCも内分泌療法抵抗性になった患者に対するセカンドライン療法として推奨されている。

TDXdの有効性は、約550人の患者を対象としたDESTINY-Breast04試験で証明され、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)いずれにおいても有意な改善が見られた。DESTINY-Breast04試験は、転移性癌に対して化学療法を少なくとも1ライン処方された経験のあるHER2低発現の局所進行性切除不能BCあるいはmBC患者を対象としていた。HER2低発現とはHER2 1+あるいは2+かつFISH陰性の患者を指している。参加した患者は無作為に2対1の割合でTDXdあるいは担当医選択治療(TPC)に割り当てられた。TPCにはカペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルが含まれていた。TDXd治療群のPFSは9.6カ月だったのに対し、TPCでは4.2カ月であった。OSに関してはTDXdが23.9カ月だったのに対しTPCでは17.6カ月であった。

SGの有効性は、約550人の患者を対象としたTROPiCS-02試験で証明され、TPCと比較して、PFSとOSにおいて有意な改善が見られた。TROPiCS-02試験は、内分泌療法、タキサン系レジメンとCDK 4/6治療を受けた経験があり、転移性癌に対して化学療法を2から4ライン受けたHER2陰性の局所進行性切除不能BCあるいはmBC患者を対象としていた。参加した患者は無作為に1対1の割合でSGあるいはTPCに割り当てられた。SG治療群のPFSは5.5カ月だったのに対し、TPCでは4カ月であり、OSに関してはSGが14.5カ月だったのに対しTPCでは11.2カ月であった。

  1. Modi et al. ESMO. 2023.
  2. Rugo et al. ASCO. 2022.
  3. Tolaney et al. ASCO. 2023.

(翻訳: 衛藤みつこ)

解説

日本における乳癌に対するADC の日常診療での利用は、HER2 陽性乳癌に対するトラスツズマブエムタンシン(T-DM1)がそのスタートであったが、その後のトラスツズマブデルクステカン(T-DXd)の登場により大きく様相が変化してきている。毒性の低い、マイルドな効果のADC という印象から、毒性はあるが顕著な効果が期待できる薬剤への変化である。 日本におけるT-DXd はHER2 陽性進行・再発乳癌に対するセカンドライン、HER2 低発現(いずれもホルモン受容体の陽性・陰性に関わらず)の進行・再発乳癌のセカンドラインで使用可能な薬剤として広く認識し使用されており、間質性肺炎(ILD)に対する注意や、高度な悪心・嘔吐への対策についてもかなり周知はすすんでいる。特に悪心対策については、日本から第 II 相ランダム化試験のESMO2024 の口演発表として報告がされるなど、医師主導臨床研究も進んできた。また、2024 年10 月4 日に第一三共は、1つ以上の内分泌療法を受けた化学療法未治療のHER2 低発現(IHC1+又はIHC2+/ISH-)又はHER2 超低発現(膜染色を認めるIHC 0)の転移再発乳がんに係る適応追加を一変申請しており、ホルモン受容体陽性乳癌のおそらく 85%程度の患者のファーストライン化学療法として、T-DXd が使用されることとなる。 サシツズマブゴビテカン(SG)は2024 年9 月24 日に日本での承認を取得しているが、米国と異なり現時点での日本での適応は、化学療法歴のある手術不能または再発のホルモン受容体陰性かつHER2 陰性(トリプルネガティブ)乳がんの治療薬としての適応となっている。11 月末〜12 月初めからの日常診療での使用になる。今後は使用経験が積まれていくと考えられるが、毒性として骨髄抑制による投与スケジュールの遅延や用量維持についての懸念が想定されており、day8 投与後にpeg-G-CSF(ペグフィルグラスチム)を使用するなどの対策がどれくらい必要か、また受け入れられるかなどの課題がある。本薬剤についても、ホルモン受容体陽性HER2 陰性乳癌に対する適応取得が今後予想されている。

Sakai H, ESMO 2024, Ann Oncol 2024

監修
 エリン・コベイン先生
エリン・コベイン先生
准教授
ミシガン大学ローゲルがんセンター
乳がん腫瘍クリニック
医療腫瘍学・内科学
解説
解説:
2024年ASCO乳がん臨床試験の要約