PATINA試験は導入療法後に病勢進行の無いホルモン受容体 (HR) 陽性HER2陽性の転移性乳癌患者を対象とした無作為化非盲検の第3相臨床試験である。
261症例に対して、標準療法とされるトラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法と一緒に、パルボシクリブ125mg投与された。対照群には257症例が含まれ、標準療法のみが投与された。
主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、パルボシクリブ追加群では44.3カ月だったのに対し、対照群では29.1カ月で、追加群ではPFSが統計学的に有意に改善されたことが示された。(ハザード比:0.74、95%信頼区間:0.58~0.94、片側p=0.0074)
サブグループ解析では、ペルツズマブの治療歴や術前・術後療法としての抗HER2療法の治療歴の有無、導入療法への反応性、また内分泌療法の種類にかかわらず、パルボシクリブ追加群でのPFSは良好であった。
副次評価項目の一つである全奏効率(ORR)は、パルボシクリブ追加群では29.9%だったのに対し、対照群では22.2%(p=0.046)で、臨床的有用率(CBR)はそれぞれ89.3%と81.3%(p=0.01)であった。いずれもパルボシクリブ追加群で良好であることが示された。
全生存期間(OS)の解析は成熟したものではなく、現時点で予定されているイベント247件のうち、確認済みの件数は119件である。中間解析の結果、パルボシクリブ追加群では3年OSが87.0%、5年OSが74.3%だったのに対し、対照群ではそれぞれ84.7%と69.8%であった。
安全面では、パルボシクリブ追加群で最も多く認められた有害事象はGrade 3の好中球減少症(63.2%)であり、それ以外にもGrade 2および3の疲労、口内炎および下痢も多く認められた。Grade 4以上の有害事象はいずれの患者群でも同程度(パルボシクリブ追加群で12.3%、対照群で8.9%、両側p=0.21)認められ、治療による死亡例は報告されていない。
総評としては、PFSを有意に改善し、有害事象も管理可能なものが多いパルボシクリブを今後HR陽性HER2陽性の進行性乳癌患者に対する新しい標準治療として使う可能性がある。
参考資料
1. Metzger, Otto, et al. "AFT-38 PATINA: A Randomized, Open Label, Phase III Trial to Evaluate the Efficacy and Safety of Palbociclib + Anti-HER2 Therapy + Endocrine Therapy vs. Anti-HER2 Therapy + Endocrine Therapy after Induction Treatment for Hormone Receptor-Positive (HR+)/HER2-Positive Metastatic Breast Cancer." Proceedings of the 2024 San Antonio Breast Cancer Symposium, 12 Dec. 2024, Texas, United States, Abstract.
2. "Alliance Foundation Trials Phase III PATINA Study Shows Promise for Patients with HR+, HER2+ Metastatic Breast Cancer." Alliance for Clinical Trials in Oncology, 12 Dec. 2024, https://www.allianceforclinicaltrialsinoncology.org/main/.
3. “New Hope for Patients with Metastatic Breast Cancer.” Breast Cancer Trials, 13 Dec. 2024, https://www.breastcancertrials.org.au/media-releases/patina-study-results/?srsltid=AfmBOoqz-e_H8wzm1KCHhsMI2Q5CIWX81pNtUekoI4CjWVTpd7hV4_ku.
4. Pfizer. “Pfizer’s IBRANCE® in Combination with Standard-of-Care Therapies Extends Median Progression-Free Survival by Over 15 Months in Phase 3 PATINA Study in Patients with HR+, HER2+ Metastatic Breast Cancer.” Pfizer, 12 Dec. 2024, https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizers-ibrancer-combination-standard-care-therapies?utm_source=chatgpt.com.
5. 「導入療法で増悪しなかったHR陽性HER2陽性の進行乳癌の1次治療で抗HER2療法と内分泌療法にパルボシクリブの追加はPFSを有意に延長【SABCS 2024】」. 日経メディカル, 16 Dec. 2024, https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/202412/586916.html.
解説
HER2/Akt経路の活性化は乳癌の内分泌療法耐性のメカニズムの一つであり、これまで抗HER2療法と内分泌療法を併用することで内分泌療法の耐性が克服されることが示されてきた。CDK4/6阻害薬はホルモン受容体陽性/HER2陰性乳癌に対して標準治療として用いられているが、抗HER2療法とCDK4/6阻害薬との併用によりHER2/Akt経路の下流のシグナル伝達をさらに強力に阻害し、内分泌療法効果を増強することが期待される。本試験はホルモン受容体陽性/HER2陽性転移乳癌における抗HER2療法とCDK4/6阻害薬の併用効果の検証を目的としたものである。主要評価項目であるPFSはパルボシクリブ群で有意に延長することが示された。サブグループ解析でもペルツズマブの治療歴や術前・術後療法としての抗HER2療法の治療歴の有無、導入療法への反応性、また内分泌療法の種類にかかわらず、パルボシクリブ追加群でのPFSは良好であった。今回発表されたサブグループ解析の中にER, PgRの発現率や組織学的グレードは含まれていないが、このような因子とPFSの関連がどうであったのか興味がある。
現時点ではOSには有意な差は認められていない。イベント数がまだ少ないこともあるが、効果の高い抗HER2薬が他にも存在するため、OSに対する影響は今後も注視が必要である。
一方、パルボシクリブ併用群ではGrade 3の好中球減少症やGrade 2および3の疲労、口内炎、下痢などが多く認められ、抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+内分泌療法と比較してQOLの低下は明らかである。どのような症例にパルボシクリブを併用すべきか、今後さらなる検討が必要であると考える。